MY LIFE 2019  輝きの女たち

文化財の保存・修復のスペシャリスト
夫の夢を継ぐ、磨崖仏の劣化防ぎ守る

山路 しのぶさん
(株)文化財保存活用研究所 代表執務役社長

 文化財の劣化調査や保存修復、コンサルティング業務を主たる事業とする。なかでも磨崖仏のスペシャリストとしてその高い専門性は九州はもとより中国地方まで「山路」の名を知らしめる。大分県は磨崖仏の宝庫。臼杵や豊後高田市、豊後大野市などには国宝も含め国や県指定の石仏が多く現存する。観光資源にもなる保存修復はこの人の手にかかっている。「文化財の医者」だ。昨今の亜熱帯的な気候は劣化を促進させる。「石仏は人間と同じように定期検診や手術が必要です」。
 いつもは作業着だが総会があるとかでかっこいいスタイルで現れた。現場ではヘルメットをかぶり足場にも上がる。保存修復は環境調査に始り石像の状態を把握し、劣化等を防ぐための処置を施す。考古学に科学をプラスした新しい分野の仕事という。
 大学は畑ちがいの経済学部卒。26歳で結婚した夫は史学科を卒業し保存化学の博士号までとった専門家。夫の活躍を応援する程度だった日々が一変。教職に就くことになった夫から「やってみて」とバトンを渡された。「これも運命」と夫の志を継いで「株式会社・文化財保存活用研究所」を設立し代表になったのは2009年。小学3年の双子の女の子の母であり、専業主婦からの転身。設立当時は県のインキュベーション施設や大分県産業創造機構などの支援や育成を受けた。
 植田地区の古民家を改装した工房に研究所の看板。石像から採取した苔や石のかけら、木片、土など様々なものを検査する機材。空撮するドローンも揃う。現在、社員5名。内女性は3名。手先の細やかさ、筆さばき、色づけなど根気のいる微密な作業は女性に適しているそうだ「いい仲間に恵まれ、今の私がある」とこの10年を振り返る。
 一番の思い出は最初に手がけた高瀬石仏。植田地区にあり平安時代中期から後期の磨崖仏で国の史跡。修復し環境を整えるまで半年を費やした。元町石仏は平安後期の作。阿蘇の噴火による凝灰石を彫った磨崖仏。国宝臼杵石仏は2体が追加され61体。磨崖仏の表面を雨風や冬期の凍結から保護するための覆屋根の改修工事にも携わった。「磨崖仏は地球に彫られた芸術品でもあり、そこにロマンを感じます」。
 石像のカルテともいえる膨大なデータは修復後の維持管理に欠かせない。自然災害が多い今日、石仏を地域の資産としてハザードマップを使えないか。夫の夢をサポートして10年。次の10年に向けて人材育成にも着手する。
 会社設立当時、小学生だった娘たちは高校を卒業し今春、揃って母の出身大学である大分大学に入学。記念写真に家族の幸せがあふれる。45才。「いつかアンコールワットなど海外の石像仏を手がけたい」と夢を語る。



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