クローズアップ 2018  輝きの女たち

鋼材の曲げ≠ノ特化し飛躍した町工場
「父と娘の10年戦争」持ち上った映画化

田口 由香里さん
有限会社 中村設備工業
代表取締役


 大分銀行ドームの屋根やガレリア竹町商店街のアーケードなどに使われている曲がった鋼材。手がけているのは「曲げは中村」と高い信頼を得ている中村設備工業(大分市原川)。硬い鋼材を曲げるには特殊な設備と技術力が必要で、県内では唯一、九州でも数少ない曲げ加工専門業者として高い生産性をあげている。
 創業は昭和44年。父・中村吉数さんが鐵工所としてスタート。当初から曲げ加工はあったものの一般工事の仕事も受注し「利益はそれほどあがっていなかった」。会社の得意分野である曲げ加工≠ノ特化し経営の方向を転換したのは、3代目社長を引き継ぐことになった平成19年。世代交代の親子の葛藤を「父と娘の10年戦争でした」と今は笑って吹きとばす。
 高卒後、エレクトーン奏者としてブライダル業界に携わる。結婚し2人の娘を育てる主婦の生活が一変したのは15年前。父の要請で事務員として入社した。最初の3年は職場の環境づくり。「工場や事務所の掃除ばかりしていました」。4年目に父のDNAのスイッチが入った。「社員は宝物」。工場の横に冷暖房完備の休憩所をつくり、事務所2階に台所と休憩室を設けた。「極めて硬い金属を笑顔で曲げる」というキャッチフレーズのもと、社員とのコミュニケーションを大切に働きやすい環境づくりを目指した。クレーンなどの免許取得、キャドの勉強会を開き若手の人材育成にも力を注いできた。
 無理・無駄を省き利益の高い曲げ≠ノ特化し業績は右肩上がり。売上高、利益率とも3期連続で伸展。「専務である夫の存在も大きい」という。女性ならではの経営センスや社員教育、財務管理などが評価され昨年2月、第15回おおいたビジネスオブザ・イヤーを受賞した。今年3月には中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模業者300社」に選定された。受賞をきっかけに吉数さんも娘を認めた。
 世界一嫌いだった父は「今は世界一大好き」になった。そんな娘と父の「町工場再建」物語の映画化が持ち上がった。監督・脚本は大分市在住の衛藤昂さん。来年の秋には撮影に入るという。「町工場で、あの鬼のような父と戦い抜いた泣き虫な娘の奮闘記を、家族の再生の物語を衛藤監督の素晴しい映像で実写化してくださる。今から楽しみです」。
 これからの目標は後継者の育成。「社員が自身をもって働ける職場」をアピールするための中村設備のブランド化。「私はその広告塔」と表紙撮影に自社製品を持参してPR。中小企業の後継者問題にもキラリと一石を投じていた。


●プロフィール
 昭和38年、大分市に生まれる。
大分県立鶴崎高等学校卒業後、エレクトーンプレーヤーとして訓練を積む。
(株)イシカワ企画に所属しブライダルに携わる。
結婚後、2人の娘を育て専業主婦に。
15年前、創業者である父・中村吉数氏に請われて有限会社中村設備工業に事務員として入社。
7年前、2代目社長だった双子の弟が独立し、3代目社長に就任。
2017年、第15回おおいたビジネスオブザ・イヤーを受賞。
今年3月、中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定される。
来年は創業50周年。社員15名のトップとして、新たな目標を掲げる。
娘2人は独立し夫と2人暮し。一番の楽しみは孫と遊ぶこと。


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